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名作スポーツ漫画から「もっといい未来」を想像してみようー『DAYS』

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いつの時代も子どもたちを夢中にしてきたスポーツ漫画。紙面に描かれた心踊るシーンの数々が、実際にそのスポーツに触れるきっかけになったという人も少なくないと思う。それはきっと、無限に可能性が広がる漫画の世界に、読者一人ひとりが自分の“未来”を重ねて読んでいるからなのかもしれない。その魅力の秘密が知りたくて、高校サッカーを描いた名作『DAYS(デイズ)』の作者、安田剛士先生のもとを訪ねた。とにかくサッカー好きな安田先生は、近年のヴィッセル神戸もしっかりチェックしている様子!

『DAYS』あらすじ——主人公はサッカー未経験の男子高校生、柄本つくし。高校入学前に起きたある出会いをきっかけに、進学先の聖蹟高校でサッカー部への入部を決意する。しかし、聖蹟高校はクセ者揃いのサッカー名門校。まったくの素人だったつくしと周りの実力差は歴然だった。それでも諦めず、必死に走り続けていくつくし。サッカーを通じて、仲間たちと支え合いながら互いに成長していく姿と心を描いている。

連載当時のことを思い返しながら語ってくれた安田先生。

サッカーに興味がなくても、夢中になれるストーリー

2013年4月から2021年1月まで、週刊少年マガジン(講談社刊)で連載していた青春スポーツ漫画の『DAYS』。2016年にテレビアニメ化され、単行本(全42巻)は2021年6月時点で累計発行部数1300万部を突破している人気作品。そんな『DAYS』の作者安田先生にとってサッカーは、幼い頃からプレーしてきた思い入れの深い存在。どうすればサッカーの面白さを伝えることができるのか、漫画家として改めて思案した作品でもあったと話す。

「サッカーはプレーするのも観るのもとても面白いスポーツ。だから、そのまま漫画にしても面白さは伝わるに違いないと思っていました。でも冷静に考えれば、それって自分がサッカーの魅力を知っているからなんですよね。そこで考え直した結果、サッカーそのものではなく人にフォーカスした物語を描くことにしました。というのも、実際にプレーする面白さと漫画で描くときの面白さには違いがあるんです。僕がいちプレーヤーとして感じてきたサッカーの面白さは、トラップがうまい位置に置けるようになったりとか、本当にちょっとした上達の積み重ね。ただ、それを漫画で描いて面白いかというとそうではなくて。漫画の面白さは、創作だからこそ描けるドラマ性だったり、キャラクター像や人間模様です。そうすることで、サッカーに興味がなかった人でも感情移入しやすくなるはずなんです」

サッカー初心者の塚本つくしを主人公にしたことで、スポーツに馴染みのない読者も自然と感情移入できた。

一説によると、漫画の世界においてスポーツは基本的に1対1の構図が多い種目の方が向いているのだそう。つまり、フィールドが広くて人数も多いサッカーの試合を漫画でわかりやすく描くことは難しい。その点、人物に焦点を当てることで強いドラマ性や緊張感を生み出した『DAYS』はそんな逆境を見事はねのけ、スポーツファンのみならず大勢の元へ届いていった。

「僕自身、人への興味が強いんだと思います。どういった考えで行動しているのか、生まれや好み、目指していることなどについて、思いを巡らせるのが好きなので。気付くと好きなサッカー選手の画像ばかり検索していることもあります(笑)」

なお、安田先生は『DAYS』以外に、自転車ロードレースを題材にしたデビュー作『Over Drive』から幕末の京都や新選組が舞台の最新作『青のミブロ』まで、数々の作品で人間味あふれるキャラクターが印象的に描いている。気になる人はぜひ読んでみてほしい。

つくしが所属する聖蹟高校サッカー部の仲間たち。人間味あふれるキャラクターが揃う。

作者の苦楽は、読者の琴線

4歳からサッカーを始めたという安田先生。その歴はなんと40年以上。当然ながら、ルールや戦術への理解も深いはず。なぜあえて、サッカー未経験者にスポットを当てたのだろう。

「主人公を運動音痴に設定したり、サッカー未経験なのに名門校に入れてしまったのは、後々の展開をあまり考えていないからできたことでした。ひと口に言えば、勢い(笑)。その反動で、連載中は素人を試合に出して活躍させるために苦労の連続でしたね……。こんなのはあり得ないとか、つくしより自分の方が絶対にサッカーが上手だと思いながら描いていました」

サッカー初心者のつくしは地道に努力を続けて成長していく。

いかにも漫画らしい展開を描く一方、実は『DAYS』の裏側には、サッカー好きならたまらないようなリアリティーや高度なサッカーテクニックが組み込まれている。

「『DAYS』の舞台は高校サッカーですが、欧州サッカーのチャンピオンズリーグに出場するような一流選手のモーションを参考にした場面がいくつもあります。“ファン・ペルシーのヘディングシュートや、イブラヒモヴィッチのトラップ”という具合に、とんでもないことが僕の頭のなかで起きている状態というか(笑)。また、『DAYS』を連載していた頃は、サッカーをより理論的に捉えた“トランジション(攻守の切り替え)”の意識が可視化され、一気に広まった時代でもあって。僕が少年の頃に教わってきたこととはまるで違う考え方で、とても新鮮な気分でした。サッカーの進化をひしひしと感じながら描いていたのを覚えています」

当時最先端のサッカースタイルを軸に展開される試合風景に加えて、十傑(じゅっけつ)と呼ばれるスタープレーヤーたちなどを中心にした個性的な面々の登場で、ページをめくる期待は膨らむばかり。ちなみに、作中で安田先生がもっとも感情移入したチームは主人公が通う聖蹟高校。描いていて面白かったチームは奈良県代表の強豪、梁山高校だったそう。

梁山高校戦は本作のハイライトのひとつ。安田先生自身の“熱”も筆から伝わってくる。

「『DAYS』の登場キャラクターで一番のお気に入りは聖蹟高校の背番号10番、君下敦。自分で描いておいてあれですが、最初の頃はなんだか女々しいしダサいキャラだなと思っていました。でも、回を重ねるごとに、こんなやつだっけ?と描き始めた頃には想定していなかったほど印象がガラッと変わりましたね。実在するサッカー選手だと、自分にはできないようなプレーをしてくれる花形プレーヤーを好きになる傾向が強いかもしれません。ロベルト・バッジョやデル・ピエロ、リオネル・メッシ。日本人なら久保建英選手に三苫薫選手。ヴィッセル神戸の大迫勇也選手も外せませんね。あんなになんでもこなせる選手は日本にあまりいないと思うし、歴代でも指折りのストライカーなんじゃないでしょうか。ヴィッセル神戸はスタイルも面白いんですよ。わりと高めの位置からプレスをかけて、ボールを奪ってからのショートカウンターとか、守備でも攻撃でも走り回る運動量とか、プレーの質も選手のモチベーションも全体的にすごく高いように感じます」

現実のサッカーも漫画のサッカーも、好きな選手やチームを見つけるのが興味を深める一番の近道だと安田先生は言う。まずは推し探しから、スポーツを始めてみない?

回を追うごとに、君下敦というキャラクターの魅力は深みを増していった。

大切なのは、いかに面白い体験を作るか

スポーツ観戦とスポーツ漫画は、それぞれに人の心を惹きつける力がある。しかし、ただ漠然とサッカーを感じるだけでは本当の魅力に気付くことができない。安田先生はこれを身をもって体験している。

「以前、FCバルセロナが日本で試合を行ったタイミングで、自分の娘をスタジアムに連れていったんです。最高のプレーを観れば、きっとサッカーに興味を持つはずだと思って。この作戦は失敗に終わったんですが、そこから得た気付きがあります。サッカーを知らない彼女にとって、FCバルセロナ戦だけでは面白い体験につながらない。それ以上に心躍る出来事や思い出を作ってあげるべきでした。きっと、この先もっと多くの人がサッカーに興味を持つために必要なことも同じなんだと思います。興味を持ってもらうための入り口を増やして、いかに面白い体験をしてもらうか。もし漫画やアニメがその一端を担っているのであればとても光栄なことですね。そうして興味を持ってくれた人にとって、サッカーが生涯スポーツになり、自分の人生がより豊かになっていく。国際的スポーツで間口の広いサッカーは、その可能性を十分に秘めていると思います」

本作が「(サッカーに)興味を持つ入り口」になったという読者も多いはず。

サッカーが好きだからこそ信じる道がある。その一方で、好きだからこそ変えたい道もある。

「一般的に考えて、設備面の充実にしろ世界的なスーパースターの招致にしろ、間口を広げるための施策には費用がかかります。チームが一丸となって頑張り続けるだけではどうしても限界があるので、国や自治体レベルがサッカーに予算を割いてくれるようになるのがひとつの理想ですね。スポーツと人がつながる機会を増やしていくなかに、いい未来は作られていく気がします」

 

スポーツ体験の選択肢、漫画。スポーツ漫画を読んで勇気をもらう人もいれば、実際にスタジアムへ足を運びたくなる人もいるだろう。なかには、漫画をきっかけにプロ選手を目指す人や、安田先生と同じ漫画家を志す人だっているかもしれない。どんな道に進んでも心配はいらない。スポーツの感動は、あなたが望む先にあり続けるから。

『DAYS』を読むなら「Rakuten Kobo」で!

安田先生のインタビューを読んで、もう一度読み返してみようと思ったファンは電子書籍ストア「Rakuten Kobo」での一気読みがオススメ。数々の名シーンは、いまも色褪せない。

TEXT:Keisuke Honda
EDIT:Yohsuke Watanabe (IN FOCUS)

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